大判例

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京都地方裁判所 昭和28年(モ)356号 決定

申立人は昭和二五年(レ)第一一号家屋明渡控訴事件について申立人が昭和二十六年十一月二十七日京都地方法務局に金二万円を供託して為した担保(供託番号昭和二六年金第六、六六七号)は之を取消すとの決定を求め、その理由として、申立人(被告、被控訴人、上告人)は被申立人等(原告、控訴人、被上告人)との間の京都地方裁判所昭和二五年(レ)第一一号家屋明渡控訴事件において敗訴し、「申立人は被申立人等に対し本件家屋を明渡せ、訴訟費用は第一、二審共申立人の負担とする。この判決は被申立人等において金一万円の担保を供するときは仮に執行することができる。但し申立人において金二万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる」旨の判決をうけた。そこで申立人は右判決の趣旨に従つて仮執行の免除をうけるため昭和二十六年十一月二十五日本件の金二万円を供託した。而して右判決に対し申立人より上告したところ昭和二十七年三月十八日上告棄却の判決があり、ここに申立人敗訴の判決は確定した。そこで申立人の提供したる右担保につき申立人は権利行使の催告申立をし、京都地方裁判所より被申立人等に対し一定期間内に権利行使をなすべき旨の催告があつた。それで被申立人等は右催告期間内に京都簡易裁判所に申立人を被告として昭和二十五年八月十日以降昭和二十七年五月十五日(本件家屋明渡強制執行完了の日)迄の本件家屋不法占有に基く家賃金相当の損害金二万六百三十六円五十銭の請求訴訟(昭和二八年(ハ)第四六号)を提起し、その旨届出たが、右の訴は単純なる損害賠償請求であつて本件仮執行免除のために生じた損害賠償とその性質を異にするから、これを以て本件担保につき権利行使があつたものということができない。尚被申立人等は本件申立の基本たる昭和二五年(レ)第一一号事件の仮執行附判決に対し上告審の判決ある迄終始仮執行の条件たる担保を供しなかつたものである。而して、判決確定に及んでこれを執行したのであつて、右の如く自ら仮執行に着手の手続をとらず、従つて仮執行の条件をみたさずにおきながら、勝訴判決確定に及び突然申立人のたてた保証に対し担保権を主張するは失当である。之を要するに被申立人等は適法な権利行使がなかつたものというべきであるから、申立人のたてた前記仮執行の免除のための本件担保の取消を求めると述べた。

仍て按ずるに、申立人がその主張の如き経緯で家屋明渡の仮執行の免除のために本件担保を供したこと、右基本たる家屋明渡事件が申立人敗訴に帰し、その判決が確定し申立人よりの申立により権利行使の催告がなされ、右催告に応じ、被申立人等より申立人に対し右家屋不法占有による申立人主張のような損害賠償請求訴訟が提起され、その届出あつたことは関係記録によつて明らかである。そこで被申立人等より提起した右損害賠償請求訴訟が本件担保に対する権利行使と認むべきか否かについて審究するに、本件担保は家屋明渡の仮執行免除のために申立人の供与した保証供託金であつて、担保権利者たる被申立人等のために勝訴判決が確定したような場合において仮執行の免除あつたがために明渡の仮執行が還延したるによる損害賠償請求権を担保するものであり、その被担保債権はすべて仮執行の免除がその効力を有したる期間内における損害賠償請求権と実質的範囲を同じくするものである。而して、被申立人等が権利行使として提起したる右訴において被申立人等が申立人に対し訴求する損害賠償の範囲は該訴状によれば昭和二十五年八月十日より同二十七年五月十五日(家屋明渡の強制執行完了の日)迄の家屋不法占有に基く損害金二万六百三十六円五十銭であるが、右の内本件保証により担保される債権の範囲は、申立人が本件担保を供託したる昭和二十六年十一月二十五日以降判決確定の日たる昭和二十七年三月十八日迄の間の家賃相当損害金に相当するから、右損害賠償請求訴訟の提起は右被担保債権の範囲内において本件の担保権の行使とみるを相当とする。次に然らば本件担保の内右被担保債権となるべき損害金を控除した残額について本件担保はこれを取消すべきかが問題となるけれども、右損害賠償債権が確定判決により確定したる場合はともかく、訴提起あつたのみでその債権のその存否及び範囲未確定の間においては保証金全額について担保を取消すべきでないと解するを相当とする。何となれば、本件申立は民事訴訟法第五百十三条、第百十五条第三項によるものであるが(第百十五条第一項によつて担保事由止みたるものとして取消を求めるものでない)いわゆる権利行使とは、被担保債権についての債務名義がない本件の如き場合には、その請求訴訟を提起して権利行使に着手することを指称するのであるから、(担保義務者において催告及び担保取消の申立をなして供託金の上に担保権利者が担保権を有することを争う以上、担保権利者においてはこの争ある権利を行使して供託金を受取るには債権者に対して被担保債権たる損害賠償請求権を主張する訴を提起し判決に因りこれを確定せしめ、該判決により自己の権利を証明して供託金還付請求の手続をする外はない。)いやしくも右訴の提起ある限りこれを以ていわゆる権利行使ありというに妨げない。(その提起された訴において主張された被担保債権の額がたとい保証供託金の全額に達しない場合でも、後日請求の拡張や訴の変更により適法にその範囲を拡張しうるものである)(又民事訴訟法第百十五条第一項適用の上よりこれをいうも、本件の如き場合は被申立人等の主張する被担保債権が判決によりその全部又は一部が不存在と確定しない限りその担保の全部又は一部を取消すべき時期到来したものということは出来ない。)

次に申立人は、本件担保は債権者の担保供与を条件とする仮執行の免除のための担保であるところ、債権者たる被申立人等は本件家屋明渡の勝訴判決確定する迄終始右担保を供していないのであつて、換言すれば仮執行の有効期間中仮執行の条件をみたさず自らその執行に着手の手続をとらなかつたものであるから、申立人のたてた本件保証供託金に対し担保権を取得しない(たといその間債務者が明渡遷延による損害賠償請求権を取得してもそれは単純なる債権すなわち無担保債権であつてその請求訴訟はいわゆる権利行使とならない)旨主張するが、右の場合債権者のたてる保証は自己のなす仮執行の開始要件であつて、債権者が保証をたてることは債務者のたてた保証に対し後日自己の担保権を主張行使するための要件ではないから、債権者が右の場合担保を供せなかつたとしても、債務者が担保を供して仮執行を免れた以上その執行遷延と因果関係ある損害金に対し、自己の担保権を主張行使するの妨とはならない。(この場合債権者にとりて債務者の仮執行免除のためにたてた保証金に対し自己の担保権を取得する関係は、あたかも債権者に対し無担保の仮執行の宣言がついている場合と同一である。)従つてこの点に関する申立人の主張も採用出来ない。

以上いずれの理由よりするも本件担保取消の申立は理由がないから主文の通り決定する。

(裁判官 増田幸次郎)

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